ミッドナイトトーキョーが2月28日に初の単独リリース作品「起きてるうちに連絡をくれよ-極楽エッセイ集- + 蝿の王“ベルゼヴヴ”/エリーのカクテル(BOOK+CD)」をリリースした。
書籍とCDをパッケージングした異例のリリース形態となった今作。メンバーが特攻服を着て撮影された『蠅の王”ベルゼヴヴ”』のMVも話題を呼び、いま勢いに乗っているミッドナイトトーキョー、Gu&Voの極楽に話を聞いた。
インタビュー / 津田唯一(アンノウンスタジオ)
ー今回収録されている2曲について、制作の際のテーマのようなものはありましたか?
『蠅の王”ベルゼヴヴ”』は俺が10代の頃に初めて作曲した曲で。だいぶ前からある曲で、元々は『特攻の拓』っていう暴走族漫画があって、それをテーマに作ったんだけど。自分で曲を作り始めた時、自作の歌詞を聴かせるのが恥ずかしくて、それで照れ隠しもあって、好きだった『特攻の拓』のセリフを引用して、歌詞にして。 あと、コーラスの歌詞のところが、英訳するとつまり『サティスファクション』じゃん、ストーンズの現代版じゃん、ってことになって。それが暴走族漫画からの引用ってのは面白いんじゃないかな、と思って作ったんだけど。
当時、パワーコードしか弾けないから、アレンジも良くなくて、バンド結成して1年くらいだったし、アレンジもちゃんと考えたりしたこと無かったし。ただリフとサビだけがあって…リフとサビがあれば曲になると思ってたんだけど(笑)。やりながら、こういうことじゃないなー、と思ってて。
で、アレンジを考える時に、「∀ガンダム」の月光蝶システム(※1)のことを考えてて。あれは発動するとガンダムの歴史がアレするんだけど、それを音楽でやったらどうなるんだろう、それをこの曲でやろう。と思ってて、レコーディングの時に、この曲の後半部分を、シューゲイザーにしよう、ってなって。シューゲイザーはどんなジャンルにもぶち込めるし、元々マイブラが好きだったっていうのもあったし。で、山中さん(※2)に相談したら、「それ、面白いじゃん」ってなって。せっかくだからいろんなジャンルを入れようって話になった。で、『I Only Said』のフレーズをキーだけ合わせて弾いて、あと『Only Shallow』とかも、ほとんど聞こえないレベルとかで入れたりして。じゃあ、イントロはニューヨーク・ドールズで始まって、途中のギターの刻みはメタルというか、ヘビメタを意識してみよう、ってなって。だから、この2分40秒の間に、ロックの歴史を詰め込んでみよう。それがロックの月光蝶だ、ロックのクロニクルだ。っていう。
(※1 「∀ガンダム」の月光蝶システム…『∀ガンダム』は1999年に放映開始されたTVアニメ。作中では、初代の『機動戦士ガンダム』を始めとする歴代のガンダム作品の時系列が、人間同士が宇宙戦争を繰り返していた「黒歴史」として封印されており、戦争の中でそれらの封印が解かれ、過去の歴史が明らかになる、という描写がある。作中に登場する月光蝶システムは、全ての人工物を分解するという強力な兵器で、この兵器によって人類の文明は壊滅し、「黒歴史」の時代が終わったという描写がある。) (※2 山中さん…UNKNOWN SOUND STUDIOのエンジニア、山中勲氏。今回の作品ではレコーディングからミックス、マスタリングを担当している。)
あと、レコーディングの時に、バンプの『天体観測』のイントロのギターの話になって。あれは、ギターを10本重ねてあるらしくて、それであの独特の音色になってる、っていう話を聞いて。だったら、こっちはその上を行こう、ってなって、だからこの曲の後半部分のシューゲーズパートは11本重ねてある(笑)。マイクは3本立てたから、33トラックあるっていう。 そのへん、せっかくだからyoutubeとかじゃなくて、CDのいい音で聴いて欲しいなと思うね。ヘッドホンとかで。

ーなるほど、あの後半部分はそういうことだったんですね。なんか、急にマイブラ始まったぞ、と思って、ビックリしたんですけど。
あと、最近ミッドナイトトーキョーのサウンドが、シューゲイザーに寄ってきてるから…。
ーえ、そうなんですか!
そう、だから、今回録音したのは昔の曲なんだけど、今のサウンドと比べて、急にそういうサウンドになるのも、違うかなって。だから、この曲にもシューゲイザーをちょいちょい挟んでおこうかな、っていう。ぼくら今からシューゲイザー取り入れていきますよ、っていう予告編というか。
あと、自分の中でのシューゲイザー論ってのが、いわゆるそういうのとちょっと違うっていうか。元々マイブラっていうのが、ガレージとかロカビリーから始まって、それが独自の暴力性と、USのオルタナティヴ・ロック・バンドの影響で、ああいうサウンドになったけど、ライド以降の文脈のシューゲイザーのバンドとか、スロウダイヴが再評価された影響で出て来たニューゲイザーのバンドとかっていうのは、みんなおとなしすぎる。パンク・ロックって行っても、咀嚼されたパンク・ロックっていうか。シューゲイザーはもっと暴力的でロックンロールな音楽の筈やっていう気持ちがあるから、『蠅の王”ベルゼヴヴ”』みたいな、ああいういかにもビートパンクみたいな曲に無理矢理シューゲイズをぶちこんで、いったん統合させる必要があるなって。それはもう、今後の日本のロックのために、俺がやらなきゃと。このままじゃシューゲイザーはオタクの音楽になってしまう、と思って。
『エリーのカクテル』についても、結構前からある曲で、こっちは元々別の曲やったのが、始まってから終わりまで同じコードで同じ展開で、ちょっとあまりにも単調すぎるなって。それもまあ、楽器覚えたての時に作ったから。だから早い段階で、歌詞も書き換えて、アレンジも変えて、『エリーのカクテル』って曲になって。これが、けっこう名曲っていうか…。ライブ観に来た人からは、「あの曲が一番耳に残る」とか、「いい曲」みたいな感じで言ってもらえて。俺も、自分が作った曲の中で『エリーのカクテル』が一番好きで。
この「エリー」っていうのは、知り合いの夫婦のことで、エリーさんとその旦那さんが、俺にとっては兄と姉みたいな。いつもいろいろ、良くしてくれて。っていうところでの、愛っていうか、喜びみたいなのを歌ってる曲で。俺はもう、見ての通りメチャクチャなので、その二人はちゃんとした人だから、俺がメチャクチャなってても、笑ってほしいなっていうか。そういう意味合いの歌詞で。
レコーディングに関しては、元々シンプルだったし、100年くらい聴き続けられる曲にしたいなと思ってて。せっかくレコーディングだし、完全にツインギターで弾いてみようかと思って。ライブのことは一回無視して。俺は元々、ゴスとかポジティヴ・パンクが好きで。一番好きなのがクリスチャン・デスっていう、バンドで、まあ名前も禍々しいけど、音も禍々しいっていう。それは、メタルとかの禍々しさじゃなくて、もっとこう、キュアーがもっと、お葬式ムードみたいな感じで(笑)。 ただ、クリスチャン・デスのニュアンスって結構難しいから、山中さんとかには、キュアーみたいな感じで、って言って、フレーズ的にも、曲がポップだから、キュアーも参考にしつつ、でも俺の中ではクリスチャン・デスだぞ、っていう。
ー曲中で、左チャンネルから鳴ってるギターのフレーズとかがそうですよね。
あれはもう、JC-120のコーラスで録って。元々、コーラスとかフランジャーのギターってすっげえかっこいいなって思ってたから。そういう俺の80’sブリティッシュ・サウンド志向みたいなのを押し出そうというのがあって。
あと、いま次のシングルはもう取りかかってて、それはメロディ的に90年代みたいになりそうだから、俺はそうはならないぞっていう気持ちと、俺はそういう80’sの音楽が好きだけどな、っていう。
考えてみたら、俺は10代の頃から、リアルタイムの音楽って興味なくて。でなんかずっと、80年代とか70年代の音楽が一番好きだったから、それって別に時代性とか関係ないってことかな、と思って。例えば『蠅の王”ベルゼヴヴ”』も『エリーのカクテル』も、いつ世の中に出てもタイムレスな名曲やないかなと。だから時代性はあまり考えず、ただ音の鳴りとかは時代性も考えてて。
ー確かに、こういうジャンルにしては、かなりハイファイな音ですよね。
そこは、山中さんとも話して。音楽性はあくまで70s〜80s指向で。ただ音の鳴りとか質感はやっぱ、今2020年だから(?)、そこも当時の感じでやるともう、ただ古くなるだけっていうか。もちろん、そこにこだわる人たちがそういう風にやるのは凄くいいと思うけど。よう分からんでそれをするのは意味ないというか。開けてないと思う。
ーパッケージで本を付ける、っていうのはどういうところから?
これは、元々音源は配信だけで出す予定で。俺は全然アナログ志向とか昔からなくて、CDの方が好きで、いまもストリーミングをばんばん使ってるから。 アルバムとかは、持っておきたいとか、歌詞カード読みたいとかあるけど、俺もメンバーも、シングルCDの存在価値が分からんと。シングルで出したいけど、でもシングルCDって…どう?みたいなのがあったから。だからもう配信だけで、って最初は思ってたけど、フィジカルもあった方が、って言う話になって。でも自分たちが要らないものを売るのは嫌だったから、俺も稗田も本が好きだから、最初はおもしろ半分のアイデアで、「極楽のエッセイでも付けてみたら?」みたいなことを言われて、俺は、「わけわからんけど面白いかもね」みたいな。で、最初は軽いノリで、ちょっと作ってみるかってなったんだけど、どうせ付けるならその、ZINEみたいな小冊子みたいなのじゃ面白くないなって思って、ガチの単行本しかない、って話になって。そこから地獄の執筆の日々が始まって。
最終的に出来上がったら132ページあって、しかも2段組みで。最初は読みやすく1段でまとめようとしたら、余裕で200ページとか超えてしまったから、2段にして。

あとは、編集とか構成とかもプロ仕様で。いつ芥川賞出しても大丈夫なくらいのレベルで(笑)。
内容的にはその、俺がミッドナイトトーキョーを結成するまでの話というか、それまでバンドをやったことがなくて、結成したのが24歳の時で。なんでそんなに遅かったのかっていうことについてのノンフィクション(表題作『起きてるうちに連絡をくれよ』)と、コラムと、あと小説が何本か載ってて。
『起きてるうちに連絡をくれよ』ってのは、昔あった曲のフレーズで。小説を読むと、なんでCDとセットなのかが分かってくるっていうか。歌詞の説明というか、リンクというか。あと今度出すMVとのリンクっていうか。で、例えばこの収録してる曲は両方とも2分とか3分とかなんだけど、本とMVとを合わせて見て行くと、その2分とか3分の曲が限りなく広がって行って。ひとりメディアミックスみたいな感じで。みんながより入り込めるように。だから、今回収録してる作品の中でも、『起きてるうちに連絡をくれよ』は結構面白くなったかなって。思ったより結構ドラマチックで。けど、決して嘘ついてないよ、っていう。
で、あともう一つ、目玉の長編が、『全部余裕』っていう、これ完全にフィクション小説で。これ途中までは前に書いてて、前半の部分だけはSNSにちらっと上げたりしてたんだけど。今回その残り半分を書くことになって。最初の方は、今読むと、結構大したことないなって思ってて。
『起きてるうちに連絡をくれよ』を書き終わった時に、書きながら、ちょっともどかしかったんよ。っていうのは、「ここでこうなった方がもっと展開するのにな」とか思いついたりして。でもそれは、『起きてるうちに連絡をくれよ』はノンフィクションだから、嘘になっちゃうから書けない、みたいな。
ーなるほど、ノンフィクションを書きながら、フィクション的な展開が思いついちゃった、ってことですね。
そう。「ここでこいつが死んだら面白いのにな」みたいな(笑)。でも殺すわけにはいかないしな、っていう。
で、その時、「俺、フィクションの書き方間違ってたな」って気づいて。フィクションはフィクションなんだから、絶対ありえないことを面白く書いた方がいいなって。そしたら、書きたいことが書けるじゃん、って思って。そっからがもう、書くスピードも加速していって。最終的にコレはちょっと、芥川賞狙えるな、くらいの。そんな感じで、急に途中から面白くなりはじめて。
だから、『全部余裕』に関しては、最初の方読んで、「あっ、これ面白くないんじゃないかな」って思っても、ぜひ最後まで読んで欲しいなと。
ーちなみに、以前に書いてた部分の中で、今の極楽さんが読んで、「面白くないな」と思った部分を、書きかえたり、書き直したりしようとは思わなかったんですか?
いや、これが面白いもんで、最初の部分を一回読んで、どうも気に入らない、と。で、いったん全部書き直して。これなら問題ない、と思って、でそれを、編集に渡して、読み直したら、そっちの方が全然面白くなくて。「何だこりゃ!?」と思って。全然面白くないと。で、書き直す前のを読んだら、あ、こっちの方が面白い、っていうか、ここは崩せないんだな、と思って。 結局なんか、音楽も文学も一緒だけど、例えば夢野久作の『ドグラ・マグラ』とか、全然わけわかんないけど、わけわかんないところをカットしたらどうなるんだ、っていったら、めちゃくちゃペラペラの、何の中身も無いものになってしまうというか。あとは、何回も『ドグラ・マグラ』を読み返した俺が、それを書き直したら、面白くなるのか、っていう。…ま、別に『ドグラ・マグラ』じゃなくても、『ライ麦畑でつかまえて』でも何でもいいけど、結局何が面白いとか、面白くないとかっていうと、ひっかかるものがあるかないか、なのかなって。書き直すまではそれがあったのに、俺が書き直したらそれすら消えてしまって、ただの面白くない前半になってしまったから、だから、一応細かいところの誤脱字とかは直したり、あまりにも「これは無いだろう」ってところは書き直したりしたんだけど、基本筋とかは、あえて手を入れないようにしようと。
だから、チャンス・オペレーション(※3)の面白さというか、全部構築されてるのが面白いって訳でもないっていう。それは、そういうのが得意な人にやってもらおうと。
(※3 チャンス・オペレーション…アメリカの前衛音楽家、ジョン・ケージによって構築された手法。作曲などの段階で、偶然性を取り入れていく手法のこと。)
あとは、CDと本は、一緒に楽しんでもらいたくて。フォトブックとCDとかならあるけど、小説とCD一緒に出すやつっていないじゃん。あんまり。で、俺はこういう感じだから、「またなんかヘンなことやってる」くらいに思われそうだけど、「ちょっと待ってくれ」みたいな感じ。これは新しい芸術のやり方だし、俺は本気だ、っていう…それを、このインタビューを通してちょっと伝えたい(笑)。
ーなるほど(笑)。決して、奇をてらってやってる、ということではないわけですね。
むしろ、こっちの方が正しいやり方だ、っていう。
あともう一個押したいのが、これ通信販売限定で、店頭にも基本並べない、と。ライブ会場の物販にも置かない、っていう感じで。
ーそれはどういう意図なんですか?
俺は最初、物販には置こうと思ってて。そしたら、稗田が、「いやだ」って言って。何故かと言ったらその、物販でモノとか買うけど、どうしても雑に扱われる、っていって。 そのときに言われたのは、「俺はこの原稿を最初に受け取って、一人で向き合って読んだ」と。本って言うのは基本そういうものだし、それが物販で売られた時に、あんまし雑に扱って欲しくない、と。買ってもらったけど読んでもらえないとか、そういうのは避けたいと。それ言われて、正直「コイツ強気やな…」と思ったけど(笑)。
ーまあぶっちゃけて言えば、物販に置いた方が売れるし、売れた後のことは知ったこっちゃないといえば、そうですもんね。
ただ、モノ作りをするっていう立場で言うと、CDは大量生産されて、家にたくさん送られて来て、レコード屋さんに送って…自分もレーベルやってるからわかるけど、やっぱ確かに、雑に扱って来たなって。で、今回、本作るのって、CDみたいにそういうのを一括でやってくれる業者がいるわけでもないし、一個一個自分たちで梱包したりすることになって。 で、今回本を作るにあたっても、稗田とめちゃめちゃケンカしながら作業して。で、稗田も自分の空いた時間を全部使って編集をしてくれたし。元々、俺が雑に書いたようなやつだったから、今回は編集作業も…というか、むしろそっちの方が大変だったと思うし。 そうやって大事に作ったものが、雑に扱われるのは…っていう。積ん読的に読まないとかならいいけど、でも俺もその、読まれる為に書いてるし、読まないなら別に買わなくていいし。雑に扱われるなら別に、買ってもらわなくていいよっていう。家に在庫としてあったほうがまだマシだと。そういう強気な方向性で行こうと。
逆に音源はもう、ひとりでも多くの人に聴いて欲しいから、youtubeとかタダで…でも、本はそんな、読みたい人だけが買って欲しいと思うし。読みたい人は買って読むべきだと思うし。
ー対面のライブ会場の物販とかだと、読みたいかどうかは分からないけど、知り合いの人が付き合いで買ってくれる場合だってあるわけですもんね。
あと酔っ払ってたりすると、汚したりしそうだし(笑)。
あとなんかこの、今の流通のシステムに対するアンチってのもあって。レコード屋さんには悪いけど、今の大手のレコード屋さんに行って、欲しいCDがなかったりとかさ。レコード屋さんで買う行為が楽しかったから、レコード屋さんに残って欲しい気持ちは分かるし、俺自身、街のレコード屋さんに行くのも好きだけど、でも流通のシステムがどんどんいびつになっていってるじゃないですか。その、お金の回り方とか。
ー具体的にはどのへんが、とかありますか?
フィジカルの存在感とかが、よくわからなくなっている、っていう。実際自分も、欲しいCDをなんで買うのかな、って言ったら、よっぽど欲しい作品が、Apple Musicとかに無いときとかくらいで。自分もレーベルやってるけど、フィジカルの流通がうまくいくのは難しいと。 そういう観点で言っても、さっきの話で言う、モノ作りの観点から言っても、ちょっと通信販売限定でやってみようかなと。言ったらリスクしか無いし、結構大きいリスクだけど、だって俺達みたいな、今やっとデビュー作を出したような新人バンドが、ねえ?(笑)
ただ、ちょうど一昨日、ラッパーのKOHHが、通販限定でアルバムをリリースしてて。それはTシャツとセットで、それじゃないと売ってないっていう。ストリーミングも無いし。やっぱミッドナイトトーキョーは先駆けてるな、って(笑)。今や世界のKOHHと近いことを思いついて、実行してるぞと。ただKOHHは速攻完売したらしいけど、俺らはまだ予約受付してるから(笑)。
ー『蠅の王”ベルゼヴヴ”』のPVについてもお聞きしたいんですが、さっきの話にもあったように、『特攻の拓』のような、ヤンキー文化の影響が強い世界観ですよね。
そうですね、元々『特攻の拓』についての曲だったから、特攻服は着ようと。あと、基本的に卍要素を高めようと。それはいつの時代にも、反体制の音楽には必要だと。
ー卍要素…っていうのは?
不良感のある、っていうのを、卍要素、とか、卍感、って、俺が勝手に使ってるだけなんだけど(笑)。
ーああ、なるほど(笑)。極楽さん作の言葉なわけですね。
そう(笑)。で何か、特攻服って言うのは多分、人間の心理的に何か、かっこいいと思う部分があるんやと思って。人の心を刺激する何かがあるんだろうと。だから特攻服は着なきゃいけないと。
で、あともう一つMVに関して言ったのは、「踊りを入れよう」っていう。踊りは卍だ、っていう。おニャン子クラブとか、なめ猫、竹の子族の頃から考えても、なぜか、不良は踊りが好き、っていう。
ーギャルがパラパラをリヴァイヴァルさせたのも、一種の不良の踊りですもんね。
そう。だから、アウトローは踊るもんだ、っていう。だから、踊りは絶対に入れなきゃいけない、って言ったら、めっちゃ稗田が反対してきて(笑)。
ー(笑)。じゃあずっと、どの制作の段階でも稗田さんとのぶつかり合いがあったわけですね…。
そうそう(笑)。稗田が「踊りはダサい」と。でも俺は「いや、踊りは必要だ」って言って。…ただ、俺があんまし踊りが元々好きじゃなくて。何で踊るの?みたいな(笑)。
ーええ!?(笑)そうだったんですか。
それは元々、俺は10代の頃から、いま流行ってるほぼ全ての音楽が嫌いだ、みたいな感じだったから。で、いつの時代も一番売れてるのはダンス・ミュージックで。それはもう、多分70sから今日に至るまで一番売れてる音楽ってやっぱり、ダンス・ミュージックだと。イコール、俺にとってダンス・ミュージックは敵だ、と。大嫌いだ、と(笑)。何で皆踊るん?っていう。あと踊るのも苦手だし。
ーそんな極楽さんがどうして、踊りを取り入れよう、となったんですか?
俺の踊りに対する考えを変えたのはまず、安室ちゃんで…。
ーバリバリのメインストリームにやられてるじゃないですか!(笑)
(笑)いや、元々安室ちゃん自体は嫌いじゃなかったんだけど、『Queen of Hip-Pop』が出た時に、やっぱ安室ちゃんって凄えんじゃねえかな、と思って。で、安室ちゃんの若い頃の映像を見返したら、ダンスはキレキレだし、スター性が半端無くて。時代を切り裂くパワーがある、と。目つきも何か良いし。それで何か、「あ、踊りって悪くないのかなあ」って。
で、もう一つがあの、DEATHROさんっていう、元々ハードコア・バンドやってたのが何か、今はソロになって、急に氷室京介風になったっていう。この人のダンスっていうか、氷室っぽい動きみたいなのが、見てて凄い楽しくて。そのときに、「踊りって単純にエンタメとして楽しいし、なんだかんだですげえんだなあ」みたいに思って。
で、最後に俺のダンスに対する考えを完全に変えたのが、チャペ・ココ(※4)。
(※4 チャペ・ココ…福岡UTEROを拠点として活動する、ベッド・インのコピー・バンド。)
ーチャペ・ココなんですね(笑)。ベッド・インじゃなくて。
そう。チャペ・ココの二人とは元々仲良くて、それもあってチャペ・ココのバック・ダンサーに誘われて。で、しばらくライブとか出てて。これが、楽しかったと。まあその、チャペ・ココのダンスって別に決まってないけど、単純に踊るのは楽しいし、あと、チャペココで自分的に一番大事だったのが、なんだかんだで自分はボーカルかギターボーカルしかやったことなくて。他のメンバーを立たせるって言うのをやったことがなかったから。目立たないといけないけど、一番目立っちゃいけない、っていう。それをチャペ・ココで学んで。だから、俺はあの二人に心から感謝してる(笑)。
あと、ラルクのコピバンをやったときに、あの二人に参加してもらって、ダンスを取り入れたら、やっぱダンスが一番盛り上がるっていうのもあったし。ダンスって言うのは凄いと思って。それこそロックばっかり聴いていた俺が、あ、ダンスって大事なんだ、と思って。 っていうのもあって、MVにはダンス入れたいなと。
あと、マイブラの『Soon』っていう、マンチェ・ビートを取り入れた曲があって。MVを見てみたら、ビリンダ・ブッチャーがこう、妖艶に踊るっていう。これはもう何か…全て間違えてなかったと。
ーてことは、ダンスの良さに気づけた時に、マイブラの中にもダンスあるじゃん、って気づけたわけですね。
ていうか、俺は『Soon』自体、元々好きじゃなくって。マイブラは元々すごく好きで、『Loveless』っていうアルバムももちろん大好きなんだけど、あのアルバムの中で異端の存在というか、現実的な雰囲気というか…。よく『Loveless』のことを評価する時に、”まるで一枚の抽象画のようだ”、みたいなことを言うんだけど、明らかにあれだけ違う絵みたいな感じだな、ってずっと思ってて。で、チャペ・ココとかをやってから聴き直したら、『Soon』が一番素晴らしい、一番曲としてまとまってるし、マンチェ・ビートにしたって、こういう融合の仕方があるんやって思って。
ーてことは、『Soon』の良さに気づけたのも、チャペココのおかげってことですか?
そう(笑)。多分あの二人は、まったくそんなことになってるとは思ってないと思うけど(笑)。そういう感じで、『Soon』の良さにも気づいて。あとはそこで、曲の中でシューゲイズパートを作って、MVではそのパートで踊ろう、っていうのを思いついて。 ダンスっていうのは、音だけじゃ表現できないから。だけど、間奏でダンスを踊ってるMVだから、次に聴いた時はそこがダンスミュージックに聴こえてくる、というか。それが、曲とMVのリンクしてる部分の一つで。そうすれば、さっき言ってた、1曲にロックの歴史を詰め込む、っていうコンセプトの中で、ダンス・ミュージックの要素も取り入れて。 そして、そこまでのアイデアを思いつかせてくれたチャペ・ココには本当に感謝してる、っていう(笑)。
ーさっき言ってたみたいに、ミッドナイトトーキョー自体がシューゲイザー・サウンドに寄ってる、っていう話だったじゃないですか。ということは、次回作はやっぱりそういう曲が収録されるんですか?
うん、次はシューゲイザーのEPを作ろうと思ってて。それはもう、未来型シューゲイザー。ニューゲイザーではなく(笑)。シューゲイザーって、俺の持論では、轟音でハウス・オブ・ラブをやるみたいな音楽性やと思ってるから、あんまりリズム的に複雑になっていったりするのは違うなって。あとは、次回作のコンセプトとして、シューゲイザーでいろいろやってみよう、っていうのがあって。「つくってあそぼ」的な。
ーそれは、「これとシューゲイザーをくっつけるよ!」みたいなことですか?(笑)。
そうそう(笑)。今とりあえず考えてるのは、1曲目はトラップで始まって、最後は音頭で終わるっていう…(笑)。発想として、テクニックでもない、今風なセンスでの解釈とかでもない、違う方法で、「つくってあそぼ」的な方法でシューゲイザーをやるっていう。
ージャンルの折衷みたいなことですね。
そう。今結構、『蠅の王”ベルゼヴヴ”』のMVを公開して以降、わりと評判良いんだけど、次回作はまた違う、「シューゲイザーつくってあそぼ」になりそうだから、ご期待ください(笑)。
ーその他に、普段の創作について、心がけていることとかって、ありますか?
さっき言ってた安室ちゃんとかもそうなんだけど、シンガーでもアイドルでも、もちろんバンドでも、自分の芸術性と向き合う、っていうのが大事だと思ってて。例えば俺は、めちゃくちゃギターがうまいわけではないし、むしろ下手な方だと思うけど、でも、それが分かった上で、自分が表現したいことって何だろうって思って。逆に自分は、文章なら人より良いもの書けるって思うから。それを中核にした音楽をやっていきたいし。で、歌も、自分の声は好きだから、それが良いようになるように、研究しようっていう。それを人がどう思うかは分かんないけど、自分の中では気に入ってるし。それを、自分が気に入らないから変えるのは良いと思うけど、人の好みに合わせて変えるのは違うと思うし。
ー自分の声を活かす為にどうするか、っていうのも、最終的な判断基準は自分の中にあるってことですね。
もちろんそうだし、かといって内に閉じこもったらそれはそれでよくないから、人の意見も聞くけどね。 ただその、基準は持っておこうと思って。その基準って言うのも、今の自分というよりは、17歳の自分っていうか…17歳くらいの自分が、一番感性が若いというか、必要以上に入れ知恵されてなくて、リベラルに物事を受け取ることができてたと思うから。その、17歳の自分が聴いて感動できる曲にしよう、みたいな。今回の曲も、さっき話してた今度の曲も、どんな曲でも、17歳の自分が反応してくれない曲はダメだ、っていう、そういう基準は持ってる。自分がいいと思うモノが良い、みたいな感じだと、誰も聴かない音楽になるっていうか。人に聴かせる必要ないじゃん、みたいな。
ー自分自身の感性も変わっていきますしね。
そう。だから、17歳の自分を基準にして、17歳の自分に聴かせたい音楽、17歳の自分が好きになれるような音楽を作れたら、頑張った甲斐があったな、って思うかな。
『エリーのカクテル』MV 本日公開
『蠅の王“ベルゼヴヴ”』のMVが記憶に新しいミッドナイトトーキョー、今回のシングルに収録されている『エリーのカクテル』も本日からMVを公開。『起きてるうちに連絡をくれよ』の購入者には、先行してハガキで案内を送付していたと言う。
起きてるうちに連絡をくれよ-極楽エッセイ集- + 蝿の王“ベルゼヴヴ”/エリーのカクテル(BOOK+CD)はNEO HOLDINGSオンラインショップ限定で販売中。